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其の十五


『さんま解禁』 暁をついて七十三隻 一斉に出航
 
  秋の味覚の王として、庶民の台所をにぎわす待望の内地サンマは北海道より一ヶ月遅れて9月12日解禁された。豊漁を予想される魚群はすでに三陸沖に達して 居り、昨年より指定基地となった本港にも千葉、福島、宮城、香川、遠くは九州の宮崎、鹿児島の各県船と地元船73隻が終結した。前日は無料で提供した映画 を楽しみ、そして夜はノド自慢コンクールで自慢のノドをカモメ焼酎でうるほした船団乗組員等は、暗いうちからエンジンをかけ調子を見ていた。
 午前4時から町主催で昨年の水揚げ優秀船の表彰式、ついで大漁を祈る壮行式が行われた。この頃から出漁の壮観を見んものと集まった町民達が黒山のようにぎつしりと押し掛けていた。
 午前6時サイレンを合図に許可書をわしづかみにした若い衆はエンジンかけつぱなしの自船にとび乗る。
 あたりはエンジンの音と煙、それを見送る町民のテープと歓声が渦を巻いて、興奮は絶頂に達した。
 大漁旗を朝風にはためかし
乍ら先を争ひ漁場へ急ぐ様は、昔戦陣を争う騎馬武者に似て一大絵巻を繰り広げた。山田港始まって以来のショーもわづか小一時間で終わり、やがて満船で帰つてくる受け入れに浜は活気を呈してゐた。
  

資料提供 川端弘行氏 (山田町在住)



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